冬の昆虫に会いに、伊藤ふくおさんと森を歩く

12月17日(土)に陽楽の森で昆虫観察会「ふくおと歩く」が開催されました。

「ふくおと歩く」は、昆虫写真家の伊藤ふくおさんによる、奈良市内各地を参加者と実際に歩きながら昆虫の生態を観察するイベントです。

今回で214回目とのことでしたが、月1回の開催なのでかれこれ17~18年も続いている長寿イベントになります。こうしたイベントを継続的に開催し続けることは、実はとても大変なことなんです。素直に尊敬します。

10:00集合なのですが、浮かれて9:00に着いてしまいました。。この日は気温もぐっと下がった風の強い日で、もっと着込んで来るべきだったと始まる前から後悔しています(特に手足の寒さ対策は必須です)。今回、ほぼ事前情報なしで挑んだ体験をしっかりお伝えするので、みなさんが参加される際の参考にしてください。

続々と参加者の方が集まって来ました。今回は開催告知が上手く回らなかったようで、僕の他は3組ほどの参加でしたが、多いときは30名以上の時もあるそうです。小さい子どもたちも多く、みなさんきっちり装備を整えて臨んでいます。

「疲れたら途中で帰ってもいいし、好きなようにやってね。」と伊藤さん。今日の探索のメインは、倒木と斜面とのことです。伊藤さんの簡単なご挨拶の後、早速出発です。勝手の分からない僕はとりあえず常連さんたちについて行きます。

最初のターゲットは、入り口付近の松の倒木です。松とみなさんが言ってましたが、僕にはまだ樹皮だけで判別するのは難しいです。。

さっそく各々持参したナイフやマイナスドライバーでホジホジ…ホジホジ…。程よく朽ちていて、さらに先日の雨でかなり柔らかくなっている様子。道具を持ってこなかった僕も手や拾った枝でやってみましたが、結構簡単に掘れます。

そうこうしていると、本日一匹目の発見です。みんな「ワッ」っと集まります。

オオゴキブリの子供

発見者の少年が嬉々として見せてくれます。慣れた所作、知識の量がすごいです。こっそり彼を「師匠」と呼ぶことにしました。

別の少年もひたすら倒木を調査していたので調子を聞くと

「僕は掘るだけだから。」

なるほど、キミは「職人」て呼ぶね。

参加者の方々は口々に「あー、これはいるな」「コレ糞だね」と言います。みなさん、この写真から虫の痕跡を読み取れますか?

なんとなく理解できたのは、繊維質ではなく、砂っぽくポロポロしてる箇所が虫が噛み砕いたり、糞なのだとか。

その後も続々と見つかります。

冬眠中のヤモリ(寒くないように樹皮を戻しました)
クワガタの幼虫

各々の好奇心に従ってバラけながら探索を続けます。もちろん危険な場所への立ち入りや、生態系にとって良くない行為は禁止されていますが、ほぼ「自由」な状態で、周りに気兼ねなく虫探しを楽しめます。

バラバラに行動して個人で楽しむのか、というとそうでもなく、ひとたび虫が見つかると、みんな自然に集まってきて、一緒に発見の喜びを分かち合いながらアレやコレやと虫の情報を教えてくれます。このゆるく自由なのに一体感のある感じが、このイベントでとてもいいなと思ったところです。宝探しの感覚に近いと思います。

続いて、木彫りの置物の裏に、謎のキラキラした卵のようなものが見つかります。

どうやら木から出た樹脂のようです。綺麗ですがちょっと残念。

ここで、とうとう僕にもヒットが。もちろん虫の種類を見てわかるはずもなく、師匠を呼びます。

「カメムシの仲間だね」

残念、レア虫ではなかった。

あらかた探索し尽くしたので、みんなでもう少し奥へ向かいます。

いくつか収穫がありました。

師匠が見つけたタマムシのかけらです。宝石のようにキラキラしていて、生き物の神秘を感じます。あ、師匠、それテーブルの脚なので掘ってはダメですよ。

カマキリの卵
オサムシの仲間のようです

ここで、僕の二つ目のヒットです。藪の中の倒木を漁っていると、黄色と黒の縞々が見えました。これは僕でも分かります、ハチです。もちろん怖いので伊藤さんに報告です。

キイロスズメバチの女王でした。この種で越冬するのは女王だけだとか。この辺で巣を作られると少し危ないので、伊藤さんが採取します。他の虫も一部採取されていて、撮影後に標本化して記録されるそうです。

次のエリアへ進み、ここからは斜面を攻めていきます。

倒木での虫の気配は少し掴んできたのですが、斜面はまた見方が違うようです。謎の小さい穴が空いてるところでしょうか。常連さんが、さっそく見つけました。

冬眠中のカナヘビ(とかげ)

お休みのところ失礼しました。そっと土を戻してあげます。僕も意気込んで探していると何か黒い虫を見つけました。

もう慣れたものです。すぐに師匠や伊藤さんに報告です。

「クロナガオサムシだね」と伊藤さん。師匠が目を輝かせています。どうやら本日のお目当てだったようです。喜ばれると達成感が湧いてきます。

その他新しい発見があまりないので、さらに奥のエリアへ進みます。

より大きな斜面なのですが、硬く砂っぽい質感です。伊藤さん曰く、このあたりはあまり状態が良くないようで、ここから引き返して、一旦休憩することになりました。あっという間に2時間が経っていました。

タマムシを見つけたエリアに戻り持参したお弁当を食べ、子供達に急かされながら探索再開です。

虫以外にもいろいろ見つかります。

謎キノコ1
謎キノコ2

なぜか山で食べれそうなものを見つけるとテンション上がります。ただし、専門家が周りにいない場合は、どんなに美味しそうでも口にするのは危険なので気をつけてください。

ヘビイチゴ

ヘビイチゴは以前にもこの辺りの自生のものを少し食べましたが、すっぱ甘いです。ゲームに「〇〇の実」として登場しそうなビジュアルがとても好きです。

ここで、伊藤さんが何か発見されたようです。

見事なハートマーク付きの虫です。伊藤さんによれば「エサキモンキツノカメムシ」という種類だそうで、このハート模様はこの個体独自のレアケースではなく、この種特有のもののようです。エモい虫ですね。後日調べると幸せを呼ぶカメムシと呼ばれているそうです。

時間は14:00。ちょうど締めにふさわしい虫が見つかり、この辺で一旦解散となりました。

子供達はまだまだやる気で斜面を掘り続けています

帰る前に参加されたご家族にもお話を伺うと、子供がそもそも虫好きで、このイベントに参加してからお父さんもはまり、そこからもう4〜5年は続けて参加されているようです。もう一組のお父さんは伊藤さんを以前から知っていて、たまたま別の地域で開催されていたこのイベントに通りがかったのがきっかけでお子さんと参加するようになったそうです。こちらも4〜5年目とのこと。


伊藤さんによると、同じ場所でも毎年生態系は少しづつ変化していて、その変遷を含め大きなデータベースとして記録を続けていかれるそうです。例えば明神山にはオオムラサキが目撃されていますが、現在、陽楽の森にはいません。ただ、特定の樹種の植林が進めば陽楽にもオオムラサキが住んでくれるようになるかもしれないとのこと。

宝探し感覚で参加できる楽しいイベントながら、十年を超える実地調査でもって記録を続ける、伊能忠敬の国土測量を彷彿とさせます。

今更ですが、僕は虫が苦手なんです。なんだったら爬虫類や両生類も苦手です。しかし、今日は違いました。なんか嫌だなと感じてた感覚がそもそも湧かないんです。本当にみんな楽しそうされていて、宝物のように虫を見せてくれます。純粋に「これが好き」という強いエネルギーが、あやふやな価値観に影響を与えてくれたのかなと思います。

「育ってきた環境が違うから、好き嫌いは〜」と有名なフレーズがありますが、「何か」に対する親や周囲の反応が、自分が「何か」に対して抱く感情にいかに影響を与えるのか、ということに改めて驚いた1日でした。

今後も月1開催の予定とのことで、次回は奈良公園を予定されているそうです。現在はイベント参加者へのメーリングリストでの告知となっていますので、参加希望の方は伊藤さんのFacebook(こちら)からお問い合わせください。

なんとなく虫嫌いな方、このイベントおすすめですよ!

この記事を書いた人Writer

陽楽放送局編集部
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富田 淳

Tomida Jun

生まれの香川を飛び出して気付けば京都で17年、そして奈良へ。STUDIO MITZとして活動しながら、フリーランスのデザイナーとして京滋エリアの寺社広報や文化遺産活用に携わる。最近はWEB制作(デザイン・実装・仕組みづくり)を主戦場としているが、メタバースやVRなど新ジャンルにすぐ手を出す癖アリ。自分が住むまちを十二分に楽しむべく、陽楽の森やまちの「おもしろがり方」を模索中。

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